免許不要・船舶検査不要。誰でも手軽に海へ出られる「2馬力ボート(ミニボート)」。
しかし――「免許がいらない=何をしてもいい」ではありません。
実際に、2馬力ボートやゴムボートが関係した逮捕・書類送検事例は発生しています。この記事では、実際の摘発事例をもとに「なぜ捕まったのか」「どうすれば確実に回避できるのか」を、初心者にも分かるようにまとめます。
免許不要でも「知識不要」ではない
2馬力ボートは、一定条件を満たせば船舶免許・船舶検査が不要という自由度の高い乗り物です。
ただしこれは「2馬力以下(正確には1.5kW未満)」という前提条件付き。この条件を外れた瞬間、違法状態に転落します。
「知らなかった」「みんなやってると思った」――これらは通用しません。
ガチ事例①:船外機を改造して“2馬力超え” → 書類送検
2024年10月|千葉県館山市
長さ3m未満のボートに搭載した船外機を改造し、2馬力を超えるの出力が出る状態にしていたとして、70代男性が「船舶安全法違反・小型船舶操縦者法違反」で書類送検された事例が報じられました。
なぜアウトなのか?
2馬力ボートが免許不要なのは、「2馬力以下だから」です。出力が2馬力を超えた時点で、船舶検査・船舶免許が必要になります。
- 免許ありでも検査なし:車検切れで公道を走るのと同じ
- 免許なし:完全な無免許運転
「ちょっと触っただけ」でも超える
2馬力船外機は、本来の性能を抑えて2馬力仕様にしているケースが多く、キャブ調整などで簡単に2馬力超えになる可能性があります。
「見た目で分からないから大丈夫」は危険な勘違い。海上保安官はエンジン音や加速・走行姿勢などから、遠目でも異常を察知できます。
中古・フリマ購入は特に注意
フリマサイトや中古個人売買で入手した船外機は、前オーナーが改造していた場合、知らずに違法エンジンを使ってしまう恐れがあります。購入時は仕様や状態確認を徹底しましょう。
ガチ事例②:ナマコ密漁で逮捕 ― 本質は「漁業権」
2022年9月|北海道
ゴムボートと潜水器を使用し、許可なくナマコを採取したとして、複数人が漁業法違反で逮捕されたと報じられました。
本質は「何が密漁か分かっていない(or 無視している)」こと
問題はナマコや量ではなく、漁業権侵害・採取ルール違反にあたる行為をしていた点です。一般の釣り人も、漁業権や遊漁ルールを把握しないまま動くと、意図せず違反に近づく可能性があります。
ミニボートは「漁業権に近づきやすい」
ミニボートは機動力があるぶん、定置網周りや禁漁エリアなどにも物理的に行けてしまう乗り物です。海の上には立入禁止看板がほぼないため、事前に調べる意識が必須になります。
ガチ事例③:航路妨害・危険運転・飲酒運転
ミニボートであっても、航路内妨害、港内立入禁止区域侵入、飲酒運転、夜間無灯火航行などは当然違法です。
「相手が避けてくれる」は危険思考
「フラッグ立ててるから見えてるだろ」「大きい船の方が速いし避けてくれるでしょ」という考えはNG。小型船ほど自分が避ける、そして航路に近づかない意識が重要です。
【番外編】海保から逃走 → 陸上で逮捕(実話)
2025年9月|島根県
航行区域違反の疑いで声をかけられた男性が海上で逃走し、いったん追跡を振り切ったものの、陸上で拘束され逮捕された事例が報じられました。
海保に声をかけられたら、素直に従いましょう。逃げ切れるわけがありません。
捕まらないための回避策まとめ

① エンジンは絶対に改造しない
キャブ調整、スクリュー交換、社外パーツ――基本は純正のままが最強です。設計は全体最適のバランスで成り立っているため、一部変更が予期せぬ不具合や違法状態につながります。
② 漁業権を必ず調べる
釣りは漁業権の外側を楽しむ行為。「釣っていい?」「取っていい?」「ここでやっていい?」という疑問を常に持ち、地域ごとのルールを確認しましょう。
③ 航路・港のルールを理解する
港の出入口、定期船の有無、交通量――調べれば分かる情報です。分からないまま突っ込まないこと。
④ 人のいない場所を選ぶ
人が多い場所ほどトラブルの芽が増えます。迷惑をかけず、海に集中できる場所選びが、結果的に安全にもつながります(もちろんケースバイケース)。
伝えたいこと
2馬力ボートは自由度が高い反面、法律の穴が多く制度の隙間にいる乗り物でもあります。だからこそ、ルール・モラル・事前調査が欠かせません。
免許はいらない。だけど知識はいらないわけじゃない。――この意識が、あなた自身と周囲を守ります。
免許不要2馬力ボートに関係する法律とルールを分かりやすく整理する
「免許不要」「船舶検査不要」という言葉だけを見ると、2馬力ボートはほとんど規制のない乗り物のように感じてしまいます。しかし実際には、複数の法律やルールが重なって適用されているのが現実です。
ここでは、ミニボートユーザーが最低限理解しておくべき法律と、その考え方を噛み砕いて解説します。
船舶安全法|2馬力ボートが「免許不要」な理由
2馬力ボートが免許不要とされている根拠は、船舶安全法にあります。
船舶安全法では、一定の小型船舶については船舶検査を免除できると定められており、2馬力以下(正確には1.5kW未満)の船外機を搭載した小型ボートは、この「検査不要船」に該当します。
重要なのは、これは「自由に使っていい」という意味ではなく、あくまで検査を簡略化しているだけという点です。
エンジン出力が2馬力を超えた瞬間、この前提条件は崩れ、船舶検査が必要な船になります。つまり、改造や不適切なパーツ交換によって出力が上がると、その時点で船舶安全法違反になる可能性があるのです。
小型船舶操縦者法|「免許が不要」なだけで「ルール無用」ではない
次に関係してくるのが、小型船舶操縦者法です。
この法律は、その名の通り「船を操縦するための免許制度」を定めたものです。2馬力ボートは、船舶安全法上の区分により、結果として操縦免許が不要になっています。
しかし、ここで勘違いしやすいのが、「免許がいらない=操縦に関するルールも関係ない」という誤解です。
実際には、操縦者の責任という考え方は免許の有無に関係なく存在します。危険な操船、他船への妨害、飲酒状態での操縦などは、免許不要船であっても問題視され、状況次第では書類送検や逮捕に発展します。
港則法・海上衝突予防法|ミニボートでも必ず守るべき交通ルール
ミニボートユーザーが最も関わり深いのが、海上衝突予防法と港則法です。
これらは、いわば海の交通ルールを定めた法律で、船の大きさや免許の有無はほとんど関係ありません。
具体的には、以下のような行為が問題になります。
- 航路内での不用意な停船や横断
- 大型船の進路前方に入る行為
- 港内や立入禁止区域への侵入
ミニボートは速度も遅くフラッグなどを立てて目立っていれば、「見えているだろう」「避けてくれるだろう」という心理が働きがちですが、法律上は小さい船ほど自ら回避行動を取る義務があります。
この点を理解していないと、本人に悪意がなくても「航路妨害」「危険運転」と判断される可能性があります。
漁業法・遊漁規則|釣り人と切っても切れないルール
釣りを目的にミニボートを使う場合、必ず関係してくるのが漁業法と各都道府県の遊漁規則です。
漁業権は、漁業者のためだけの制度ではなく、水産資源を守るための仕組みでもあります。
魚種、サイズ、採捕方法、期間、エリアなどは地域ごとに細かく定められており、釣り人もこれを守る義務があります。
特にミニボートは行動範囲が広く、オカッパリでは行けない場所にも簡単に近づけてしまいます。その結果、知らないうちに漁業権の内側へ入り込んでしまうケースも少なくありません。
「知らなかった」では済まされないのが漁業法です。釣行前に必ず、地域の遊漁ルールを確認する習慣を持ちましょう。
なぜ2馬力ボートは「グレーに見える」のか
2馬力ボートがトラブルになりやすい理由の一つに、法制度の“隙間”に存在しているという点があります。
免許不要・検査不要という例外的な扱いを受けているため、「何をしても大丈夫」という誤解が生まれやすいのです。
しかし実際には、複数の法律が重なって適用されており、その多くは使用者の常識とモラルに委ねられている部分でもあります。
だからこそ、2馬力ボートは「自由」な反面、「知識のない人ほど危険」な乗り物だと言えます。
免許不要2馬力ボートでよくある質問(FAQ)
Q1. 2馬力ボートは沖に何kmまで出ていいの?
法律上、2馬力ボートには「〇kmまで」という明確な航行距離制限はありません。そのため「どこまででも行ける」と誤解されがちですが、これは非常に危険な考え方です。
実務的には、風・潮流・波・救助体制を考慮すると、岸から遠く離れるほどリスクは指数関数的に上がります。特にエンジントラブルが起きた場合、2馬力では自力帰還が困難になるケースも多く、結果的に救助要請=海保出動につながる可能性があります。
「法律上OK」と「安全に戻れる」は別物だという認識が重要です。エンジントラブルが起きた時に手漕ぎで帰ることができる様に、常に今いる場所から手漕ぎで帰るならどのくらい時間がかかるか?日没までに間に合うかなどを考える事が大切です。
Q2. フラッグを立てていれば航路付近を通っても大丈夫?
フラッグはあくまで「存在を知らせるための補助装備」であり、航路侵入を正当化するものではありません。
航路は大型船が優先的に通行する場所であり、小型船は原則として避ける側です。フラッグを立てていても、航路内で停船したり、進路を妨害した場合は「航路妨害」と判断される可能性があります。
「見えているはず」「避けてくれるだろう」という考え方は、最も危険な思考の一つです。
Q3. 夜釣りは本当にダメ?ライトを付ければ問題ない?
法律上は、全周灯など所定の灯火を備えていれば、必ずしも夜間航行が違法になるとは限りません。
しかし、2馬力ボートでの夜間航行は、視認性・衝突リスク・救助の難しさを考えると、現実的には非常に危険です。特に相手船からは距離感が掴みにくく、小さなボートは見落とされやすくなります。
法律論として「グレー」でも、安全面・倫理面ではおすすめできない行為です。
Q4. 海上保安庁に止められたら何を確認される?
海上保安官に声をかけられた場合、主に以下の点を確認されます。
- 船外機の種類・出力
- 安全装備(ライフジャケット、フラッグ等)
- 航行目的・出航場所
- 飲酒の有無
このときに重要なのは、慌てず落ち着いて指示に従うことです。逃げようとしたり、曖昧な受け答えをすると、状況が悪化する可能性があります。
Q5. 注意で済む人と、捕まる人の違いは?
実体験や事例を見ていると、注意で済む人と、書類送検・逮捕に至る人には明確な違いがあります。
それは「悪意があるかどうか」よりも、「安全意識と事前準備があるかどうか」です。
安全装備を整え、ルールを理解し、周囲に配慮した行動をしていれば、多くの場合は注意や指導で終わります。逆に、改造・無理な航行・危険行為が重なると、結果的に厳しい対応を受けやすくなります。
Q6. 初心者がまず最初に守るべきポイントは?
初心者が最優先で守るべきなのは、以下の3点です。
- エンジンや艤装を安易に改造しない
- 地域の漁業権・遊漁ルールを必ず確認する
- 航路や港内に近づかない
この3つを守るだけで、「捕まるリスク」「事故リスク」は大幅に下げることができます。
実体験から分かる「海保に絡まれにくい人・絡まれやすい人」の違い

筆者自身、15年以上にわたってミニボート釣りを続けてきました。さまざまな海域で釣りをしてきましたが、海上保安庁に実際に声をかけられた経験は数回程度です。
もちろん、沖に出ていれば巡視艇や保安官の視線を感じることは何度もあります。しかし、そこから「実際に止められるかどうか」には、はっきりとした違いがあると感じています。
海保に絡まれにくい人の特徴
まず、海保に絡まれにくい人には共通した特徴があります。
- ライフジャケットを正しく着用している
- 視認性の高いフラッグを掲げている
- 無理な航行をせず、人や船の少ない場所を選んでいる
- 落ち着いた操船をしており、挙動が安定している
これらはすべて「安全意識が高い」というサインです。海上保安官は、怪しい人を探しているというよりも、事故やトラブルにつながりそうな船を重点的に見ているように感じます。
海保に絡まれやすい人の特徴
一方で、絡まれやすい人にも共通点があります。
- ライフジャケット未着用、または未整備
- 航路や港内付近をうろつく
- エンジン音や加速が明らかに不自然
- 周囲を気にせず、危なっかしい動きをする
こうした行動は、本人に悪意がなくても「事故の可能性が高い」と判断されやすく、結果として声をかけられる確率が上がります。
「注意」で終わるか「処分」になるかの分かれ目
重要なのは、注意で済むか、処分や摘発に発展するかの分かれ目です。
この違いを分けるのは、「違反しているかどうか」だけではなく、その場での態度や受け答えも大きく影響します。
落ち着いて指示に従い、必要な説明をきちんと行い、反論や言い訳をしない。この姿勢があるかどうかで、対応が大きく変わるケースは少なくありません。
2馬力ボートは「自由」だからこそ自制が必要
2馬力ボートは、免許不要という点で非常に自由な乗り物です。しかし、その自由さは使用者のモラルと知識によって支えられているとも言えます。
免許はいらない。ですが、知識と責任は必要です。このことを理解しているかどうかが、安全に、そして長くミニボート釣りを楽しめるかどうかの分かれ目になります。
ルールを守り、無理をせず、周囲に配慮する。この当たり前の積み重ねが、結果的に「捕まらない」「事故らない」一番の近道です。
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